月あかりの下で~ある定時制高校の記憶~

rika_rika

2010年09月01日 11:37

映画『月あかりの下で~ある定時制高校の記憶~』を観ました。


公式サイトはここ

【STORY】
※映画『月あかりの下で』のビラより

かって学校で夢をつぶされた彼らが
再びその夢を語ることでできた場所
それは<学校>だった

夜間定時制高校-
そこはいま働く若者たちの学びの場、そして小・中学校で不登校、
高校を中退した若者たちの再出発の場となっています。
映画の舞台は、1学年1クラス、全校生徒120人足らずの
埼玉県立浦和商業高校定時制のあるクラス。
派手なメイクで身を固め教師に暴言を吐く生徒、
家庭内暴力が原因で登校できなくなった生徒、
明るい笑顔が魅力のある生徒は自傷行為を繰り返し・・・
彼らのやわらかな心は、家庭や社会の歪みに傷ついていました。
そんな若者たちが、大家族のような<学校=居場所>の中で
悩み、ぶつかり、支え合い過ごした日々と、その先に見えた希望。

2002年の入学から2006年の卒業までの4年間、
そしてその後への、生徒一人一人に寄り添った貴重な映像が、
テレビ放映を経て、ここにドキュメンタリー映画として誕生しました。

人との絆が、人を育てる。
いまを悩み、懸命に生きるすべての人へ、この作品を捧げます。

【感想】
※ネタバレあります。
ただ、内容がわかって観ても、十分感じ、考えさせられる映画です。

この映画は、入学から卒業までの4年間の記録をとった映画です。
初日、平野先生が生徒に語りかけます。
平野先生からの最初のメッセージは、
「不登校だった自分=自分に正直な自分=Ok」というものでした。

でも、正直、
学校で夢を自分をつぶされた彼ら彼女たちには届いてないだろうと思いました。

実際、生徒は先生を試します。
お酒を飲んで真っ赤な顔で現れた子
授業中に、先生の横で黒板に落書きをする子
学校に来ても、保健室や職員室で騒ぐばかりで、教室に全く入ろうとしない子

先生たちは××しなさいと命令したり、怒って否定するこは一切ありません。
最初の数年は、彼ら彼女に居場所をつくることが大切なのだと先生は言います。

居場所ってなんでしょう?
ここに自分がいてもいいと思えること。
その為には、受けれられている、もっといえば必要とされている
と実感できる場所でしょうか。

先生たちは、彼ら彼女の話にじっと耳を傾けます。
先生たちは集まり、生徒一人一人について、状況や思うこと、考えを語り、意見を求めます。
学級通信で、毎日語りかけます。

とにかく、いろんな事件が起きます。
その都度、本人の話しを聴き、クラスみんなの意見を聴き、
本人がクラスに受け入れられていること、必要とされていることを
本人もみんなも確かめていくのです。
そして、それが学級通信として、改めて言葉となって皆に伝えられる、共有する。
結果、みんなが受け入れられている、みんなが必要とされていることを
何度も何度も確かめていくのです。

Aさんだけでない、一人一人等しく。
1回だけでない、何度でも。
この絶対信頼のプロセスの繰り返しこそが、
絶望・疑心⇒安心と不安⇒信頼と自己開示⇒
浦和商業高校定時制のみんなといたい、勉強したい、貢献したい。
へと変化させていったように思いました。

4年生になる時に、このままでは進級できない人が沢山出てしまいます。

その時に読み上げられた茨木のり子さんの詩「自分の感受性くらい」
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ぱさぱさにかわいていく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
何もかもへただったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもひよわな志しにすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
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先生は悔しくて泣きます。
みんなに気持ちが届いてほしい。
先生は真剣なのです。
みんなができることを信じているのです。

自分のために喜んでくれる、褒めてくれる。
そんな教師はいましたが、
自分のために泣いてくれる。悔しがってくれる。
そんな教師に私は残念ながら出会う機会がありませんでした。

別に教師でなくともいいのです。
自分のことを一生懸命に考えてくれる。
そんな人との出会いは、きっと、
人は一人では生きていないということを実感させてくれるでしょう。

先日ブログに書いた
障害者雇用7割の日本理化学工業
に共通するところがあるように思います。

この映画は、本当は2008年の浦和商業高校定時制の閉校を阻止するために
撮影を開始しました。実際には、完成が間に合わず、閉校してしまいました。

協議会で、卒業生、在校生が訴える場面もありました。
正に、かって学校で夢をつぶされた彼らが
再びその夢を語ることでできた場所。
それが<この学校>だったのです。

最後に、平野先生からの映画を観る人へのメッセージで終わりたいと思います。

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映画を通して、学校で、青年たちが成長するという事実を観てもらたい。
見落としてしまうかもしれない小さな変化。でもその一歩があるからこそ、学校ってすばらしい。
人はそれぞれ、取り換え不可能な「生」をまっとうさせるために一生懸命生きている。
との事実を、教育というフレームで観ることができるだろう。

そして夜間定時制高校は、まだまだ必要な場所であることを知ってもらいたい。
浦和商業定時制はたくさんの人の存続を!の声を受け取りながら、
2008年3月に閉校させられてしまった。全国に吹き荒れる定時制つぶしに対して、
「NO」の声を大きくしていきたい。だから私たちは、かつてのいたらなくてなさけない姿を
映画の中でさらけ出している。その覚悟の裏側を、心の隅に滑り込ませて映画を観ていただけるとありがたい。
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映画は、ポレポレ東中野で9月17日まで
9月5日は平野先生とのトークイベントもあります。


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